世界中の人間の手を集めて博物館をつくり、平和の施設に、てのひらの作品を設置するのが私の夢である。


by tunisianoyoru

山で修行

大峯山の山上ケ岳は標高1719mで、今ではこの一帯はユネスコ世界遺産に登録されている。
以下大峯山の登山道より。

山で修行_b0178362_216491.jpg

危険生物 

白蛇 漬物石なみにでかいカエル サトリ ヒダル神 ぬりかべ こなきジジイ

1300年間の女人禁制の伝統があり、男性しか登れない。

村人からの依頼は、ご利益があるといわれる御札を手に入れるため登山をする護衛を引き受けてほしいというものでした。我々は村人から簡単な説明を聞く。(嘘です。)
山で修行_b0178362_20573871.jpg


自分はふだんから女人結界の中に住んでいるのでいまさらとは思ったが、女性のいない世界には違和感を覚える。

馬車で移動中、ハリーポッターシリーズ一部と二部をDVDで見る。

やっぱり映画と小説は違いますが、よくできていると思います。

近代ファンタジー小説の原型になったのは、100年以上前のイギリスの作家、ヘンリー・ライダー・ハガードの『洞窟の女王』などの洞窟が出てくるシリーズでしょうか。伝記小説のようなかかれ方で、ファンタジーの中にリアリティを求めた作家です。
山で修行_b0178362_205829100.jpg


これがすごく面白く、『シャーロックホームズシリーズ』を書いた、アーサー・コナン・ドイルもハガードを意識していたようです。

同時代人には『宝島』を書いたロバート・ルイス・スティーヴンソンがいますが、ハガードの小説のほうが人気があったようです。スティーヴンソンには『ジキル博士とハイド氏』という名作があります。

コナン・ドイルとスティーヴンソンはスコットランドのエディンバラ出身で、ハガードはイングランドのノーフォーク出身です。
山で修行_b0178362_20585198.jpg


その後、イギリスには女性作家も多く出ました。
このジョアン・ローリングのハリーポッターシリーズもスコットランドのエディンバラのカフェで書かれたもののようです。

アイルランドにはブラム・ストーカーの恐怖小説『吸血鬼ドラキュラ』やジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』(女吸血鬼の話)などがあります。

ケルトの伝説からこうしたファンタジーが生まれたと言ってもいいんじゃないでしょうか。
山で修行_b0178362_20593552.jpg


イギリスからD&Dといったテーブルトークが生まれますが、はじめはチェスのような駒を使うものだったようです。

その後日本にも伝わり、ファミコンのドラゴンクエスト(日本版D&D)ロールプレイングゲームのはじめの作品が作られます。イギリスと日本の島国的国民気質は近いものがあったようで、現在に至ります。
山で修行_b0178362_20595790.jpg


ハリーポッターシリーズは、作者ジョアン・ローリング自身の離婚と、わが子に向けられた愛情をうまく作品に反映させており、ヴォルデモートという悪役は、おそらく離婚が引き起こす否定的な部分を象徴的に描いたものではないかと私は思います。

邪道ですが、純粋空想よりも、現実の問題とリンクしているファンタジー小説に面白さを感じるほうなのです。
山で修行_b0178362_2103455.jpg


ハリーポッターシリーズが読める人はこんな作品がありますので紹介しましょう。

フィリス・アイゼンシュタインの『妖魔の騎士』という作品があり、ファンタジー小説というより、文学作品といってもよいのではないかという異色の作品があります。

この作家も女性で、男女を問わずに読んでいて面白いと思います。名作ですが、あまりメジャーではありません。読みやすいと思います。

この作品のあらすじは複雑なのですが、自分の父は騎士だと聞かされて育った少年が父に会うために旅に出ますが、じつは卑劣な魔法使いが、手下に騎士に変身させて少年の母に産ませたのだと…そしてその卑劣な魔法使いこそが自分の父であるということを知るという話。

この手下はいい奴なのですが、魔法使いに支配されていて、命令に逆らえないのです。

手下は、少年に父親のような愛情を持っており、魔法使いの眼を盗んで、事あるごとに少年を助けます。

よかれと思ってしたことが、結果として自分の父が卑劣な魔法使いであることに気が付く方へも向かわせてしまうというジレンマが描かれています。

現実にもこんな話はありそうです。
山で修行_b0178362_2113484.jpg


しかしこの作品はラストが取って付けたファンタジーっぽいもののエキシビジョンのようになっていて、そこの部分は良くないです。

無理にファンタジー小説にしなくてもいいじゃないですか。ラストは書かんでもええと思います。

この作品ははじめに、作者が自分の母に励まされたことを感謝すると言ったことからはじまりますが、おそらく自分自身の生い立ちについてこの作品の中に描いたのではないか…と、勝手に想像しています。

若者の成長を冒険を通じて描くというこの手の小説の王道ではありますが、特に世界を救うわけではなく、非常に個人的な理由、自分自身とは何なのかというものというところに文学的な魅力を感じます。

騎士、父への憧れやから希望にあふれている若者。自己のルーツをたどるという目的。

そして父の醜く卑劣な裏切りから、自分自身に対する幻滅と転落というストーリー展開は、魅力的です。多分女性から評価されるタイプの小説ではないかと思います。
山で修行_b0178362_212436.jpg


フィリス・アイゼンシュタインの『妖魔の騎士』上・下巻 1983 ハヤカワ文庫 井辻朱美訳、ムアコックの作品の訳も手がけているところを見るとかなりこの人の訳はいいと思います。

このシリーズ続編が出ていたんですね、当時は(7年前)手に入らなかったのでそのまますっかり忘れていました。

『氷の城の乙女』 上・下巻 1997 これは買いたいところですね。

『妖魔の騎士』を久しぶりに読み返してみたくなりました。
by tunisianoyoru | 2009-08-19 21:13 | 作家活動日誌(第二部)