世界中の人間の手を集めて博物館をつくり、平和の施設に、てのひらの作品を設置するのが私の夢である。


by tunisianoyoru

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ヴァンジ彫刻庭園美術館

 ヴァンジ彫刻庭園美術館は、静岡県にあり、富士山の東に2002年4月に建設された。現代イタリアを代表する彫刻家、ジュリア-ノ・ヴァンジ(1931ー)の作品を展示するために作られた美術館である。1960年代から現在までの作品が展示され、ひとりの彫刻家の歩みを展望できる。

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 彫刻家ヴァンジの略歴について

 ジュリア-ノ・ヴァンジは、フィレンツェ近郊に生まれ、二十代のころ抽象的な形態を追求し一時期ブラジルに渡る。人間をテーマにすると決意した後イタリアに戻り、以来閉塞した社会の中に生きる人間の本質を、ときには暴力的ともいえるような、具体的な形態で表現してきた。また、プレキシガラス、ニッケル合金、金、銀といった様々な素材を研究し、伝統的な象眼技法を応用し、彫刻の中で組み合わせた。1995年に開催された、ベルヴェデーレ要塞の大回顧展は、それまでの彼の探求を世界に示すものとなり、同年のヴェネツィア ビエンナーレで一部屋を与えられ、その評価を不動のものにした。

ヴァンジ彫刻庭園美術館の設計について整理する。

  ヴァンジ彫刻庭園美術館は、富士山麓の豊かな自然の中につくられたミュージアム集合体の中の一つである。同地域にクレマチスガーデン、IZUフォトミュージアム、井上靖文学館、ベルナール・ビュフェ美術館、などが密集している。
 ヴァンジ彫刻庭園美術館は、ヴァンジの作品の展示を目的として設計されたため、展示作品の設置場所、スポットの当て方なども作家の意志に基づき決められている。地形の高低差を利用した庭園の中に彫刻が展示され、作品を鑑賞するとともに、山や海そして空、伊豆箱根、三島市街地などの景色を眺めることができ、周辺環境をうまく利用している。

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ヴァンジ彫刻庭園美術館の運営の工夫について

 入館料は季節によって変化する。11月~3月は入館料が安くなり小中学生は無料になる。閉館の時間帯も季節によって変わる。冬は短く、夏は長くするなどの工夫がある。チケットの販売所では見る施設の組み合わせによって細かく割り引きの値段が設定されており、鑑賞者の興味によってチケットを選べるのは、良心的である。図録が高いのが、残念だが、この規模の美術館ならしかたがないかもしれない。多種類の美術館を組み合わせることによって来る人達の幅を広げる努力をしている。

 ヴァンジ彫刻庭園美術館の展示の工夫について

 館内は、コンクリート仕上げで、照明は全体として暗くしてあり、彫刻の陰影を強くうかびあがらせ、強い存在感を感じさせることに成功している。そして作品は建築ともうまく融合している。彫刻にとって明るすぎる照明は、形態を弱めてしまうだけでなく質感や輪郭もあいまいなものにしてしまう。来訪した日はたまたま天気の悪い日だったので、奥まった場所は暗すぎると感じた。天候によって明るさをコントロールしていただけるとありがたかったのだが、これは無理な注文かもしれない。主に人物を主題にした作品が多い中、要所にスポットを当てて表情をうまく引き出している。広い空間を十分使って展示しているため、多くの作品を見てもそれほど疲労を感じなかった。

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 ヴァンジ彫刻庭園美術館

 作品は大きなもので数メートル。小さなものも、時間をかけてつくってある。素材も様々なものを使っており、完成度の高いものが多い。ひとりの作家が、生涯にわたって、制作してきた作品と向き合うことができるというのをセールスポイントにするなら、もう少し若いころの作品があってもよかったのではないかと感じた。この点は少し惜しいと思う。

 展示がすばらしく、ほとんど気の抜けた展示はない。作品の場所、向き、間合い、空間の取り方は熟考してある。ヴァンジ自らが展示したとあるが、ヴァンジの力量の高さがうかがえる。特に自然公園の野外彫刻は、季節ごとに様々な花が咲き、日本の四季の美しい変化が、ヴァンジの彫刻作品に影響するしかけになっている。自然環境と調和させることによって、一度来た者は、別の季節にも来たいと思わせることに成功している。

 作品としては、具象であるが、顔や手、足、ボディといった人物彫刻の主要素以外は、形に大胆な省略があり、重要部分は細部まで作りこんである。作品に流れる思想や哲学はイタリア人らしく、人間の生命、存在と苦悩に関わるものである。単に生を謳歌するという制作姿勢ではない。仕事の量から見て、一年中ほとんど休みなしで、腰をすえて制作に取り組んでいたことがわかる。

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(この作品はヴァンジ彫刻庭園美術館も野外庭園の中に地下空間を作って展示されていたもの)

 作品のルーツとしては、単一ではなく、様々なところにルーツがあるように感じる。作品からは様々な過去の彫刻を研究していたことがうかがえる。古代の彫刻もよく研究していたようで、シュメール、エジプト、ローマ、など人類が作り出した彫刻なら、世界中のものを取り入れていることが、作品から見てとれる。ヴァンジの彫刻からはイタリアが世界の彫刻が先端だという誇りや気概が、十分伝わる。
 日本にこのような美術館があることは、すばらしいことであり、日本の彫刻文化に好影響を与えるものであると考える。日本の近代の彫刻家の作品をじっくりみれる場所は、関東では、朝倉文夫記念館、井の頭公園の北村西望彫刻館あたりが良いが、ヴァンジ彫刻庭園美術館も、日本の若い芸術家たちが見てほしい美術館のひとつである。
by tunisianoyoru | 2010-07-10 23:02 | 展覧会