世界中の人間の手を集めて博物館をつくり、平和の施設に、てのひらの作品を設置するのが私の夢である。


by tunisianoyoru

オスカー・ワイルド原作 『サロメ』を紙芝居化  ~山田朗紙芝居絵画 

 タイトル 『サロメ』

原作 オスカー・ワイルド 『サロメ』より

 シナリオ・作画・紙芝居制作 山田朗

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遠い昔のお話。ここは、海から離れた砂漠の国です。

青い、夜空に、ひとつ、銀色の月が出ています。宮殿には、兵士達が、何かしゃべっています。

「ローマから帰ってこられた王女サロメは、なんとうつくしくなられたのだろう。」

「あまり王女を見てはならぬ。見ればよくないことがおきるぞ。」

「それにしてもさっきから、向こうで、怒鳴っているのは誰だ、いったいなんの騒ぎだろう?」

「ユダヤ人だ、いつも宗教のことであらそっている。とにかく目に見えないものしか信じないのだそうだ。」

「人は、信じるものが、違うというだけで、あらそわねばならぬが、しかし、あの預言者は、あらそわずに済むように、救いの主が、我々を救ってくれるのだと、言っていたぞ。」

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宴会場の奥。王が酒を飲み、后が小言を言っています。

「あなたはなぜ、そのような奇妙な格好をされているのです。」

「これはな、これから流行る服装なのだ、なんでも、はるか東には、黄金の国があって、このような格好をしているらしい。」

「また、あの預言者の言うことを、真に受けて、くだらぬことをしておられるのですね。あの男は、民衆をかき集め、私の悪口ばかり言って、反乱を起こそうとしました。いますぐ、打ち首にするべきです。」

「しかし、うわさでは、あの男は、本物の預言者というぞ。殺してしまえば、民衆が、反乱を起こすかもしれぬ。わしの父は、預言者を殺したため、おそろしい呪いを受けて、苦しみ、死んだのだ。かしこいものは、手近なところに、快楽をみいだすのだ。」

王はサロメをじっと見ています。
「あの子を見てはなりません。あなたはあの子を見てばかりいます。あの子は、あなたの兄と、私の間にできた娘です。」

「ふん、お前は、よその男とばかり会っているらしいな。しかし、わしらの神は、公平であろうが。」

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宴会場の外。サロメが井戸の近くを歩いています。

「あそこは嫌、とても我慢できない。なぜ王は、もぐらのような目をして、あたしを見てばかりいるのだろう…。」

突然、井戸の中より預言者ヨカナーンの声が聞こえます。

(預言者ヨカナーン)
「パレスチナの国よ、見よ!やがて蛇の卵より、バジリスクが孵り、育ての親を、貪り喰らうであろう。」

サロメは言います。
「ああ、この声は、王が恐れている男だね、それにしても、なんて不思議な声だろう、あたしは、あの男と話しがしたくなった。」

隊長ナラボスが言います。
「それは、かなわぬことでございましょう、王女さま。王女さまの御命令とあれば、命は惜しみませんが、その命令だけは出来ませぬ。」

サロメが答えます。
「あの男をつれておいで、おまえなら、きっと、しておくれだろうね、ナラボス。明日、お前に、小さな花を投げてあげるよ。」

ナラボスが言います。
「王様が、この井戸の蓋を開けることを、固く禁じているのでござます。なんでも預言者を殺した者は、呪われ、おそろしく苦しみ、死んだとか…。わたしには出来ませぬ。」

サロメがナラボスの耳元でささやきます。
「おまえならきっと、してくれるだろうよ、ナラボス。私をごらんよ、ナラボス、お前は、私の願いを、かなえてくれるつもりなのだよ。」

ナラボスはしばらく考え、やがて兵士に合図をします。
「…預言者を出せ。王女サロメ様が、お会いになりたいとおっしゃられる。」

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預言者ヨカナーンが、井戸の底から現われます。
「その男は、どこにいる、瀆神の罪に満ちた盃を、持てる男は?いつの日にか、衆人環視のなかに、死に目をさらす男は?」

「その女は、どこにいる、壁に華やかに彩られた男の、絵姿を見、おのが欲情に、身を屈して、カルディアへ、使いを送りし女は?」

「主の道を、掃き清める者の、言葉を、聴けと言へ、その罪を、悔い改めよと。ここに来いと言え、神の裁きを受けるがよい。」

サロメはヨカナーンの声を聴いて言います。
「それにしても恐ろしい、なんて恐ろしい男だろう。あの眼は、壁掛けを、松明で焼き貫いた、黒い穴のよう。あの男の肉は、きっと冷たいに違いない。あたしはあの男を、もっと近くで見たい。」

ナラボスが言います。
「いえ、なりませぬ、王女さま。」

サロメを見つけたヨカナーンが言います。
「この女は、何者だ、おれをみてはならぬ。連れて行け。この女ではない。おれの話したいのは。」

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サロメは、ヨカナーンの方へすべるように歩いていきます。
「あたしは、サロメだよ。ユダヤの王女。」

ヨカナーンはサロメに言います。
「さがれ!バビロンの娘!主に選ばれし者に、近づいてはならぬ。お前の母は、罪業の酒を持って、地を侵したのだ!その悪名は、神の耳にも届いている。」
サロメはヨカナーンの肌にさわろうとします。
「続けておくれ、ヨカナーン。お前の声は私を酔わせる。」

ナラボスはサロメを止めようとします。
「王女さま! 王女さま! 王女さま!」

ヨカナーンは言います。
「さがれ!バビロンの娘!おれに手を触れてはならぬ。女こそ、この世に、悪をもたらすもの、おれが耳をかたむけるものは、神の声のみだ。」

サロメは白い腕をのばして、ヨカナーンに口づけしようとします。
「触るな!ソドムの娘!」

「ああ!」とナラボスは一声あげると、おのれを刺し、サロメと、ヨカナーンの間に倒れます。サロメは、ナラボスが、自殺したことには見向きもせずに、ヨカナーンの髪をつかんで、口づけをせまります。

ヨカナーンはサロメに言います。
「呪いあれ、近親相姦の、母より生まれし娘よ、お前の上に、呪いを!」
「お前は、呪われているのだ、サロメ、お前は、呪われているのだ。」

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サロメを探しに来た王は言います。
「サロメは?王女はどこにおる?なぜ席に戻らぬのだ。わしに酒を注げ。そして、おれと飲め、この酒は、ローマ皇帝から送ってもらった、特別うまい酒だぞ。おまえの唇を一口つけよ、あとは、わしがほしてやる。」

サロメの代わりに后が答えます。
「娘は、今、喉が渇いていないと言っております。あなたは、あの娘に、かまうのはやめなされ。」

王が言います。
「サロメ、こちらに来い。わしの横で休め。お前の母の椅子を与えよう。」

后が代わりに答えます。
「娘は、疲れてはおらぬと言っております。いくらあなたが鈍いと言っても、もう娘が、あなたのことを、嫌がっていることは、おわかりになられたでしょう。」

王はサロメに向かって言います。
「サロメ、ローマでは、踊りが得意だったようだな。踊ってくれさえすれば、なんでも、好きなものを、お前にやろう。この国の半分でもよいぞ。この冠にかけて、命にかけて誓うぞ、なんでもお前の、好きなものをやろう。踊りを、みせてくれさえすれば。」

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サロメは答えます。
「必ず、望みのものを、くださるのであれば、踊りをお見せいたしましょう。王様。」

舞台が用意され、太鼓を叩く男と、笛を吹く男が呼ばれます。王は落ち着きなく、手をもみしだいて、待ちきれない様子です。サロメは、踊りの服装に着替え踊ります。サロメの踊りは見事なもので、王は、口をだらしなく開き、鼻の下を伸ばして、食い入るようにサロメの踊りを見ていました。

「ああ、見事だった。見事だったな! 見ろ、踊ってくれたぞ、お前娘は。来い、サロメ!ここへ、褒美をつかわす。なんなりと申すがよい。お前のほしいものをつかわそう。」

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サロメは、王に、望むものを言います。
「ヨカナーンの首を、ください。銀の、まるい、大きな皿にのせて、私に、ヨカナーンの首を、ください。」

后は言います。
「よう言うてくれました。サロメ。あの男は、私に数々の、暴言を浴びせかけました。首を、切られるのは、当然のこと。」

王が答えます。
「本当に、そんなものがほしいのか?そんなものを、求めてはならぬ。男の切り首など、醜悪極まるものではないか。そんなものを眺めて、何が楽しいのだ?母の、言うことなど聴くな。わしは、世界で一番、大きな宝石を持っておる。美しい、大きな宝石を、お前はほしくはないか?それを望むがよい。きっとやるぞ。」

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サロメが言います。
「私は、ヨカナーンの首が、ほしゅうございます。ヨカナーンの首を、くださいませ。」

后は言います。
「よう言うてくれました。サロメ!…あなたは、みんなの前でお誓いになりました。王はしかとお誓いになったのだよ。…そして、サロメは、自分のこころの、欲するままに申し上げておるのでございます。」

王が答えます。
「あの男が、聖者であることは、多くの民衆が、証明しておる。おそらく、神のつかいであろう。殺すと、わしに、禍がおこるであろう。わしの父は、預言者を殺し、呪われて、苦しみ、死んだのだ。このわしに、禍がおこることを、お前が、望むはずがない。とにかく、なにか、他のものを望め。おれのいうことを聴いてくれ。」

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サロメが言います。
「私に、ヨカナーンの首を、くださいませ。」

王は席に、崩れるように座ります。
「この女に、望みのものを、やれ!なぜ、わしは、誓いを口にしたのか!誓いを守らねば、恐ろしいことが、起きるが…、誓いを守れば、やはり、恐ろしいことが、起きるのではないか…。とにかく、何か、恐ろしいことが、起きようとしているのだ…。」

サロメは、銀の、まるい、大きな皿に乗った、ヨカナーンの首に、語りかけます。
「これでお前は、永遠に、私だけのものだよ。ヨカナーン、おまえは、私のほうを見なかった。お前は、若く、美しい、ユダヤの王女を侮辱した。お前の体は、カラスにくれてやる。カラスに、つつかれて、喰われてしまえばよい。おお!なんだか空に、影が昇ってゆく。おまえは、首を切り離しても、私から、逃れようというのかい。そんなに、私が憎いのかい。私は、お前の唇がほしい。お前に、口づけを、してやろう。お前が、あんなに嫌がった、口づけを、してやるのだよ。」

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サロメが、ヨカナーンに、口づけすると、サロメの身体は、カマキリのような怪物に変わっていきます。
「ああ、いよいよ予言どおりに、蛇の卵が孵ったのだ。近親相姦の結婚が、怪物を生みだしたのだ。近くにいては危ない!王様、兵士が一人やられました。」

王が言います。
「見よ、呪いがかかったのだ。あれでは、カマキリの化け物ではないか。やはり、預言者の首など、ほしがったことが、この結果だ。あれはもう、人間とは思われぬ。言葉も通じぬではないか。どうすれば、元にもどるのだ。おい!こっちにくるぞ。」

后は、大声で笑いながら言います。
「ホッホッホッホ、これで、あの娘は、この国の女王となりました。サロメに、女王の椅子を、お与えくださいませ。」

王が命令を出します。
「あんな危険な化け物を、女王にできるわけがない。こっちにきたぞ!槍を!槍を持ってこい。あの化け物を、突き殺してしまえ!」

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太鼓を叩く男と、笛吹き男が話しています。

太鼓を叩く男が言います。
「予言者も、王女も、殺してしまった。もう、この国もおしまいだ。我々は、明日から、どこへ行けばよいのだ。」

笛吹き男が答えます。
「救いの主がやってきて、我々を、すくってくれるだろう。昨今、某国では、本物の救いの主が現われたが、磔にされて、殺されたそうだ。なんでも、イエスという男だったとか。」

太鼓を叩く男が言います。
「我々は、神がつかわした、救いの主まで、打ち殺してしまうような、どうしようもない連中ですからな。地上を、楽園に変えてもらったところで、我々は、奪いあい、傷つけあい、あげくのはてに、破壊するだけの理性と愛情しか、持つことができないようになっているようですな。」

笛吹き男が答えます。
「自然の摂理は、闇と、虚無が、中心にあって、闇以上に、暗くはならぬし、虚無以上に、失うこともないのだ。我々は、いつの時代も、天上を、地上まで、引きずり降ろそうとしたとき、地面を失って、奈落へ転落してゆくだろう。」

太鼓を叩く男と、笛吹き男が、肩を組んで、話しています。
「…まあ、最後の日が来たとしても、我々は、太鼓や、笛を、派手に打ち鳴らすしかありませんのでね。最後の日が来たら、それこそ、我々、一斉に、天に向かって、せいぜい派手に、太鼓や、笛や、馬鹿騒ぎを、やらかそうじゃありませんか?ねえ、それが、我々の本当の姿ですからな。」

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『East Omi Street』  ~2010/1/5~3/31~

場所 『ふれあい美術館・薬膳料理』

    〒527-0023 滋賀県東近江市八日市緑町4-1
    近江鉄道八日市駅から徒歩10分程度 TEL 0748-22-6866

期間 2010年1月5日~3月31日 10時から16時 日曜日は休館 
    (イベントで日曜日が開くことがあります。)
    料理を注文する場合は要予約。一人1000円程度。

展示内容 東近江の若手アーティストの展覧会。 展示企画 山田朗 
    
1F
   『Project Of Hand~山田朗てのひら彫刻展』
    2010/1/5~3/31まで

2F
   
   『加藤貴宏写真展~酒と葉巻と革命と』
    2010年3月8日(月)~3月31日(水)。


   StageB
   『山田朗~紙芝居絵画』
    2010/1/12~3/31 
   『サロメ』

ふれあい美術館・薬膳料理の駐車場は3台です。


3ヶ月間は長かったです。展覧会は無事終了ですが、紙芝居の展示の搬出は4月10日(土)なのでまだ作品をみることはできます。
by tunisianoyoru | 2010-03-31 18:48 | 作家活動日誌(第二部)